2型T細胞非依存性免疫応答の誘導メカニズムの研究
B細胞に抗体産生を誘導する抗原は、主にT細胞依存性(TD)抗原、T細胞非依存性1型(TI-1)抗原、T細胞非依存性2型(TI-2)抗原の3種類に分類されている。TD抗原が起こすTD免疫応答は下記の通り。TI-1抗原はLPSのようなToll様受容体(TLR)リガンドを含有し、B細胞上のTLRを刺激して、増殖・分化・抗体産生を誘導する。TI-2抗原は高度に繰り返すエピトープにより、B細胞抗原受容体(BCR)を架橋することによりB細胞の増殖・分化・抗体産生を誘導するとされているが、それだけでなく、他の細胞の作用も必要と報告されている。私たちは、TI-2応答においてBCRシグナルから増殖・分化を誘導する細胞内メカニズム、および、細胞外の促進シグナル・細胞を解明するための研究を行っている。最近、TI-2抗原に反応したB細胞がIgGへとクラススイッチするのに、BCR下流のPKCδが必要であることを見出した(深尾ら eLife 2021)。また、B細胞に発現するDNA分解酵素DNase1L3がB細胞のTI-2応答に必要であることも見出した(加藤ら Int. Immunol. 2023)。
外部から侵入した病原体は樹状細胞などの抗原提示細胞に取り込まれ、細胞内で消化され、その蛋白抗原の一部のペプチドが主要組織適合抗原(MHC)上に提示される。リンパ節や脾臓などにおいてこのMHC/ペプチド複合体にT細胞受容体(TCR)を介して結合したT細胞は活性化・増殖してヘルパーT(Th)細胞に分化する。一方、B細胞はB細胞受容体(BCR)を介して病原体を認識すると活性化・増殖するとともに、樹状細胞と同様に病原体由来のペプチドをMHC上に提示する。ヘルパーT細胞がこれを認識し、CD40リガンドやIL-4などのサイトカインによりB細胞のさらなる増殖を誘導する。そうして増殖するB細胞によりリンパ濾胞内に胚中心が形成される。胚中心B細胞内では免疫グロブリン遺伝子のクラススイッチおよび体細胞高頻度突然変異が起こり、その結果、抗原親和性の変化したIgGクラスのBCRを発現するB細胞が生まれ、その中から親和性の増大したB細胞が選択される。選択された高親和性B細胞はクローン性に増殖して、記憶B細胞や長期生存形質細胞(LLPC)へと分化する。記憶B細胞は長期生存し、再び同じ抗原に遭遇すると一部はすぐに増殖を開始し形質細胞へと分化して高親和性抗体を産生するが、一部はまた胚中心反応を経てさらに高親和性の記憶B細胞となる。長期生存形質細胞は主に骨髄に移行し、そこで持続的に抗体を産生する。
このように、B細胞の免疫記憶は主に末梢リンパ組織内で胚中心を経て形成されるが、胚中心における突然変異制御機構や、高親和性B細胞の選択、自己反応性B細胞の負の選択、そして、選択された細胞から記憶B細胞やLLPCへの分化決定機構といった未だ不明な点が多く残されている。また、記憶B細胞の長期生存のメカニズム、二次応答の制御機構もほとんど分かっていない。私たちは独自に開発した誘導性胚中心様B細胞培養系と様々な遺伝子変異マウスを駆使してこれらの謎の解明に挑戦している。その中で、記憶B細胞に発現するIL-9受容体を介したシグナルが記憶B細胞の二次応答(recall response)における抗体産生を促進すると同時に、記憶B細胞からの胚中心形成を抑制していることを見出した(高塚ら Nature Immunol. 2018)。また、recall responseにおいて記憶B細胞が抗体産生に向かうか胚中心を形成するかという運命は、一次応答の際のB細胞のCD40刺激に強さに影響されることを示した(小池ら eLife 2019)。
一方、アレルギーの原因となるIgEを産生するB細胞は主に胚中心で生み出されるが、正常個体では、IgEにクラススイッチしたB細胞はすぐに短命の形質細胞に分化するので、記憶B細胞や長期生存形質細胞には分化しない。私たちは、胚中心B細胞に発現したIgE型BCRからの自発的なシグナルが短命の形質細胞への分化を誘導することすることによって、IgE型の記憶担当細胞の形成を抑止していることを見出した。また、そのシグナル伝達経路も解明し、その経路の異常が長期IgE産生とアレルギー発症に至ることをマウスモデルで証明した(羽生田ら Nature Immunol. 2016)。
また、酵母細胞壁由来のβ-1,3グルカンを主成分とするザイモザンをアジュバントとして抗原をマウスの皮下に免疫し、その後、気道に抗原を投与すると血液中および気道粘膜に抗原特異的IgAが産生されることを見出した。また、この方法でインフルエンザ不活化ワクチンをマウスに免疫すると、その後、通常致死的濃度である異種インフルエンザウィルス感染によるマウスの死を防いだ。この発見は、従来よりブロードな反応性を持つIgA抗体の産生を誘導する皮下ワクチンへの応用に繋がる(二瓶ら、Int. Immunol. 2023)。
IgA腎症における抗メサンギウムIgA型自己抗体の産生機構
IgA腎症は世界で最も罹患率が高い原発性慢性糸球体腎炎であり、病理学的には糸球体メサンギウムへのIgA優位な抗体の沈着、メサンギウムの増殖を特徴とし、徐々に進行し糸球体の破壊に至る難病である。ヒトでは、IgA1の糖鎖異常により形成された免疫複合体がメサンギウムに沈着するとされているが、その組織特異的な沈着の理由は不明であった。私たちはIgA腎症自然発症モデルであるgddYマウスを解析し、多くのgddYマウスの血清には腎糸球体に結合するIgA自己抗体が存在し、この抗体が結合するメサンギウム細胞中のタンパクの1つとしてβ2-スペクトリンを同定した。IgA腎症患者の多くの血清にもβ2-スペクトリンに結合するIgAが検出された。また、gddYマウスの腎臓にIgA型の形質芽細胞が蓄積し、この細胞が産生するIgAもβ2-スペクトリンに結合した。β2-スペクトリンは細胞内蛋白であるにもかかわらずメサンギウム細胞表面に発現し、gddYマウス腎の形質芽細胞由来の単クローンIgA抗体に認識された。さらに、この単クローンIgA抗体をマウス体内に投与すると腎糸球体メサンギウム領域に選択的に沈着した。以上より、IgA腎症は抗メサンギウム自己抗体を起因とする組織特異的自己免疫疾患である可能性が初めて示された。一方、混合抗生剤の投与によりgddYマウスの腎への形質芽細胞の蓄積が抑制され、また、血清中のIgA自己抗体も消失した。さらに、gddYマウス血清中および腎臓内形質芽細胞由来のIgAはgddYマウスの腸内細菌ではなく口腔内細菌に結合した。これらの結果から、腎臓内IgA型形質芽細胞は短命であり、口腔内常在細菌に反応する記憶B細胞から継続的に形成され、メサンギウム表面蛋白と交差反応するIgA型自己抗体を産生すると考えられた。
アレルギー疾患感受性を高めるIgE自然抗体の産生・維持機構
IgEは本来、寄生虫の排除など生体防御に働く抗体クラスであるが、現代では様々なアレルギー疾患に共通する病因として知られている。血清IgEは健常人では僅かしかないが喘息やアトピー性皮膚炎といった慢性アレルギー患者では高値で維持され、アレルゲン特異的でない総IgE値も一部の疾患で発症と相関する。IgEが肥満細胞や好塩基球、気道平滑筋細胞上のFcε受容体に結合すると、アレルゲン非依存的にそれぞれの細胞の生存・増加を促し、疾患感受性を高める。そこで、私達はアレルゲン非依存的に産生される血清IgE、すなわちIgE自然抗体(nIgE)について研究している。TLR下流のシグナル因子MyD88を欠損するマウスでは2週齢からnIgEが上昇し始め、4週齢以降高値で維持される。このnIgE産生維持は長期生存形質細胞ではなく記憶B細胞に依るもので、気道内の特定の共生細菌(S. azizii)により誘導されることが分かった。一方で、非血球系細胞におけるMyD88の欠損がnIgE産生の原因であったことから、恐らく肺上皮のMyD88を介したTLRシグナルがTh2応答を抑制していると思われた。実際、MyD88欠損マウスの肺の細胞からCSF1の産生が亢進しており、それに反応する樹状細胞(cDC2)やS. azizziに反応するTh2細胞が肺で増加していた。CSF1阻害抗体をMyD88欠損マウスに投与するとTh2細胞が減少し、血清IgEが低下した。以上より、正常では恐らく何らかの気道内共生細菌によりTLR-MyD88を介して肺でのCSF1産生とそれによるTh2応答は抑制されているが、幼小児期にその共生細菌が非常に少ないと、別の特定の細菌(マウスではS. azizii)を抗原とするTh2応答が誘導され(natural sensitization)、IgE産生細胞に運命付けられた記憶B細胞が形成されてしまうのではないかという仮説を立てた。この病原性記憶B細胞は再び同じ細菌に出会うと増殖とクラススイッチを起こし、IgE型形質細胞となってnIgEを大量に産生する(recall response)と考えられる。この仮説は所謂「衛生仮説」の実体を示している可能性がある。また、インフルエンザウィルス感染により肺上皮のMyD88の発現が低下するという報告もあり、それによってTh2応答が誘導される可能性もある。MyD88を介する肺の恒常性維持機構について、また、膨大な数の他の共生細菌と異なり、なぜS. aziziiがnIgE産生に至るTh2応答の抗原となるのかについて今後明らかにしていきたい。
私たちはin vitroにおいて胚中心反応を再現するB細胞培養系を構築した。CD40LとBAFFを発現するフィーダー細胞 (40LB) の上でIL-4存在下に脾臓B細胞を培養すると、B細胞はIgG1・IgEへクラススイッチし、胚中心B細胞様となって著しく増殖する。この細胞をマウスに移入するとその数%が記憶B細胞様のIgG1陽性細胞として長期に生存する。一方、IL-4の後にIL-21に替えて培養するとさらに増殖するが、この細胞をマウスに移入すると記憶B細胞ではなく、長期生存プラズマ細胞に分化して維持される。さらに、培地のみで培養を続けたB細胞はin vivoでの記憶B細胞への分化能力を回復する。このように、このシステムで増殖するB細胞は条件によってin vivoで記憶B細胞あるいは長期生存プラズマ細胞に分化する能力を獲得するので、機能的にも胚中心B細胞と同等であるといえる。私たちはこの胚中心様B細胞を induced germinal center B cell(iGB細胞)と呼ぶことにした。iGB細胞はクラススイッチを高率に起こし、AIDを発現しているが、Ig遺伝子の突然変異は検出されない。しかし、外部からAIDを過剰発現させると突然変異が誘導される(野嶋ら Nature Commun. 2011)。
脾臓の濾胞内に形成された胚中心
種々の変異マウスとiGB細胞培養系およびヒト材料を用いて以下のプロジェクトを進めている。
1)記憶細胞への分化制御機構
2)記憶B細胞の2次応答の制御機構
3)体細胞高頻度突然変異の誘導機構
4)IgA型記憶B細胞の動態・機能
5)IgA腎症の発症メカニズム
6)IgE自然抗体産生のメカニズム
7)ヒト腫瘍浸潤B細胞を用いたがん治療法開発
8)T細胞非依存性免疫応答のメカニズム
東京理科大学 生命医科学研究所
大学院生命科学研究科 北村研究室
〒278-0022
千葉県野田市山崎2669
TEL/FAX : 04-7121-4071
E-mail: kitamura@rs.tus.ac.jp
リンク:
あなたもジンドゥーで無料ホームページを。 無料新規登録は https://jp.jimdo.com から